ラップ道:韻とリリックの関係及びリリックの書き方の基礎

近年のラップブームで韻というものがより身近になり、皆様も韻について考える機会が増えたことだろう。韻の踏み方に関しては以前こちらの記事で一通り解説したが、今回はその先の韻の扱い方、その中でもリリック制作での韻の扱い方について解説したい。

 

なぜ韻を踏むのか

「なぜヒップホップは韻を踏むのか」

ヒップホップを聴いてる人であれば盲目的に、「ヒップホップとはそういうものである」と受け入れているかもしれない。かくいう筆者も幼少の頃にヒップホップと出会い、しばらくは「そういうもの」として概念的に受け入れていた。

しかし、学生時代に広告研究の授業を受けた際に、「有名な企業のキャッチコピーやCMのフレーズには韻を踏んでいるものが多い。何故なら韻を踏む事によってリズムが生まれその言葉がより強烈に頭に刷り込まれるから」と教えられ、韻を踏むことの意味を知った。

 

セブンイレブン、いい気

こちらは業界トップの売り上げを誇るコンビニエンスストア、セブンイレブンで2010年頃まで採用されていたキャッチコピー。「ぶん」で子音踏みをしている。

 

インテル入ってる

こちらはアメリカの超大手半導体素子メーカー、intelのキャッチコピー。セブンイレブンと同様に前後の文節の最後に、子音踏みを取り入れている。こちらのキャッチコピーはintelの日本支部(インテル株式会社)が国内向けにアメリカで使われていたキャッチコピーを翻訳したものだ。

では、本国のキャッチコピーはどうだろうか。

 

intel inside

「in」の子音踏み(頭韻)である。

韻を踏むと文章にリズムが生まれる。そのリズムがただの文章を詩へと昇華させ、ただの文章とは比べ物にならないほどに人々の感性を刺激する。

ここで改めて考えて欲しい。

 

「なぜヒップホップは韻を踏むのか」

 

答えは「韻を踏む事によってリズムが生まれるから」である。そして、先の大学講師の教えをラップに置き換えると、「ラッパーが伝えたいことを、より強くリスナーの耳に残すための手法」とも考えられるだろう。

ループミュージックであるという事を意識する

ヒップホップは基本的に同じ音のループの上に言葉を乗せていく。「韻を踏むことでリズムが生まれる」と前述したが、これはつまり、「同じことの繰り返しはリズムを生む」ということと同義である。

一定の音を繰り返すループ。そこに同じ母音の言葉を小節の同じ部分に配置する事により、ループ感がより協調され、それが所謂グルーヴと呼ばれるものになっていくのだ。一定の音の繰り返しに、歌なりラップなりが乗っているのにも関わらず、それに反して毎回違う箇所で韻を踏んでしまうと、あまり良いグルーヴにはならない。

だからといって、同じことを繰り返しすぎると今度は退屈な印象を与えてしまうため、ときにはアクセントとなる変化も必要になってくる。単純に見えて非常に奥が深い音楽、それがヒップホップなのだ。

 

文章≠リリック

ここからは具体的なリリックの考え方について解説する。仮にラッパーであるあなたが、心の根底にある思いを普段の言葉遣いで、ただつらつらと書き並べたとする。果たしてそれはリリックと呼べるだろうか。

曲というのは小節の積み重ねで成り立っており、1小節には4つの拍(4拍子の場合)が存在する。その拍にうまく言葉が乗らないと音として聴き心地の良いものにはならない。言いたいことを言うだけでは演説のBGMにトラックを用いているのと何ら変わりない。

拍にうまく言葉を乗せ、音楽にする。これが韻を踏むことよりも重要なラップの第一歩と言える。

1つの拍に乗せられる文字数は日本語の場合3~5文字程度である。フロウの仕方などでこの辺は変動するが、話がややこしくなるので、今回は割礼もとい割愛する。

 

さて、同じリズムでパンパンパンパンと4回手を叩きながら、次の文章を声に出してみてほしい。

 

隣の 客は よく柿喰う 客だ

 

3拍目は文字数が多いため、字余りになってしまうか、無理やり収めようとして早口になるかのどちらかだろう。では次の文章であればどうだろう。

 

隣の 客は 柿喰う 客だ

 

3拍目の収まりがよくなるよう字数を調整した。このように、思いついた言葉をうまく足し引きしたり、同じ意味の別の文字数が異なる言葉に置き換えたりすることによって、うまく小節に収めることで、ただの文章がようやくラップのリリックとしての歩みを始める。

 

  • 韻を踏む意味
  • ループミュージックである
  • 拍に上手く収める

 

ここからは、以上の三つのポイントを踏まえたうえで、実際にリリックを考えていく。

この文章を書いているのが7月ということで、「7月・しちがつ・iiau」というお題で、日本語ラップの基本とも言える4文字踏みを基軸にリリックを考えてみたい。

 

気付けば/半分/過ぎた/7月

どこにも/行かない/夏に/意味ある?

家から/出ないと/なるよ/死にたく

出掛ける/ためには/まずは/身支度

 

意味も通っているし、拍の収まりもいい。小節の最後に韻を配置することでグルーヴも意識できている。しかし、これを実際に声に出してみると、3~4小節目あたりでダラダラしている感じが出てしまう。メリハリが無く、単調なのだ。

次は変化を意識して書きなおしてみる。

 

気付けば/半分/過ぎた/7月

どこにも/行かない/夏に/意味ある?

まずは/身支度/金を/引き出す

派手な/海パン/穿いて/粋がる

 

3小節目の2拍目にも韻を配置。初めのリリックに比べるとメリハリがあり、だれた印象がなくなった。

これは一貫して小節の最後で踏むなどの大きな前提は守りつつ、細かい部分で変化を付けるというやり方だ。細かい変化によりメリハリが生まれ、リリックを聴き進めてもだれることなく、かつ変化させた部分の次の韻は強調されるというオマケ付きだ。

このやり方はあくまで一例であり、3拍目4拍目で連続で踏んだり、4拍目で踏んだ韻を次の小節の1拍目で連続で踏むのもいい。その辺は個人の好みやトラックとの兼ね合いで決めるといいだろう。

 

参考になるアーティスト

いくら理論的な話を聞いて理解したところで、いざ書き始めてみるとなかなかペンが進まないという方も多いだろう。そういった方は偉大な先人達の楽曲を参考にするといい。幸い、クラシックと呼ばれるような楽曲の中には、ライミングの教科書と言っても差し支えないようなクオリティのものがたくさん存在する。それらの韻の踏み方を参考にすると、楽曲制作のハードルがうんと下がるだろう。

また、好きな楽曲のフロウや韻の配置はそのままに、他のリリックのみを改変するというのも手だ。習うより慣れよ。KOHHも仲間内でキングギドラの楽曲のビートジャックをして遊んでいたのがラッパーとしてのスタートだったという。クオリティはさておき、まずは一曲仕上げてしまえば全体の流れも掴みやすい。

 

キングギドラ及びZEEBRA,K DUB SHINE両名のソロ作品

日本語の韻を日本語的発音で踏ませたら右に出るものはいないくらいこの2人は上手い。特にZEEBRAの「Original Rhyme Animal」と「Based on true story」は全曲教科書になり得るリリックだ。

 

KICK THE CAN CREW

メンバー全員、しっかりと意味を通しつつ、長めの韻を踏むのが上手い。かつてメジャーシーンを賑わせただけあって、分かりやすさはバツグン。特にラインミングの参考という意味で、「Sayonara Sayonara」は必聴。

 

ZORN

最近の押韻巧者と言えば、忘れる訳にはいかないのがこのラッパー。ZORN名義になってから日常的な言葉でライムする事が増えたZORN。「そんな踏み方をするのか・・・」と感心させられる事が非常に多い。「100 Remix」のZORNバースは、同曲に参加してる他のラッパーと比べ、ガッチリとした硬い韻の安心感が素晴らしい。こちらも要チェックだ。

 

参考になる書籍

前述した3組のラッパーは、それぞれタイプこそ違う物のリリックを書く際に非常に参考になる。リリックをチェックしてどこでどう踏んでいるのかを研究してみるといい。

また、ラッパーがどうやってリリックを書いているのかを実際に取材してまとめた、「ラップのことば」(著 猪又孝)という本も存在する。同書は、「ラップのことば2」と合わせると、総勢30名ものラッパーのリリックに対する姿勢やその書き方が記されている、駆け出しラッパーのバイブル的な一冊となっている。

こちらも併せて参考にするといいだろう。

あとがき

あくまで韻はリズムを生むための詩的表現の1つであって、必ず踏まないといけないというルールはない。実際に「韻を踏む・踏まない」のトピックは未だにラッパー間でも論争を生んでいる。

Mummy-Dは以前ラジオ番組で「他の部分でリズムを作れていれば踏む必要はない」と言っているし、FORKは「韻を踏むのはマナー」だとバトルの中で言っている。本当に考え方は千差万別、人それぞれだ。

また、韻にとらわれ過ぎてしまい、リリックがダサくなるというのは往々にして起こり得る事態であるため、あくまでも韻は「楽曲をよりよくするための手法である」ということは忘れてはいけない。「酒は飲んでも飲まれるな」よろしく、韻は踏んでも踏まれないよう気を付けて欲しい。

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