ラップ道:MCバトルにおける「ネタ」と「引き出し」の違い

バトルの解説や動画のコメント欄なんかを見ていると往々にして目にする、「ネタ」と「引き出し」の言葉。「あのラッパーはネタばっかり」、「あいつは引き出しが多い」。この二つの言葉は混同されがちで、正しく理解している人はあまり多くないように思う。例えば相手が踏んだ8文字の韻に対して、全小節の最後に同じ母音の韻を踏んだラッパーがいたとする。果たしてこれはネタだろうか。それとも引き出しだろうか。

 

MCバトルにおける「ネタ」とは

MCバトルと言われて皆さんは一番に何を思い浮かべるだろうか。UMB?KOK?戦極?高校生ラップ選手権?数多くあるMCバトルの大会だが、そのほとんどがトーナメント形式を採用している。ここでは自分がそれらトーナメントの出場者だと仮定して考えて欲しい。一回戦の対戦相手は運悪くもあの晋平太だ。

(一回戦から晋平太が相手か・・・。晋平太といえば「CHECK YOUR MIC」が印象に残ってるな・・・。)

そこであなたは次の試合に備え脳内でシミュレーションする。そしてこんなラインを思いつく。

お前の楽曲 「CHECK YOUR MIC」
あれクソダセェよ センスがない

晋平太の楽曲名を使い、DISをしつつライミング。実際にバトルでこのラインを用いたら「ネタ」となる。要するに相手に合わせて事前に用意をしたライムを「ネタ」という。

あなたは駆け出しのバトルMC。なかなかバトルに勝てないあなたは寝る前に布団の中でとっておきのライムはないか考えます。

相当テクニカル
速攻で首刈る

(こいつはいい!使えるぞ・・・)

さて、バトル当日。あなたは何の前後の脈略もなく、相手の言葉も無視してとっておきのライムを繰り出す。

これも「ネタ」となる。おそらくオーディエンスの反応もイマイチだろう。

MCバトルにおける「引き出し」とは?

MCというのは基本的にはバトル以外にも音源制作等の活動をしているもの。そして音源でももちろん韻を踏む。新しいリリックを書くたびに新しいライムも考えているわけだ。そうすると自ずと記憶の中にライムがどんどんとストックされていく。

なにも音源制作だけではない。例えばサイファーでもそうだ。サイファーの最中に思いついたライムもどんどん記憶されていくし、友達との会話の最中に思いついたあのライムだって記憶されていく。

そうやってHIPHOP的な生活を営む中で積み上げられていくライムのストック。それが「引き出し」である。「ネタ」の解説の二つ目の事例、これも「引き出し」だ。「ネタ」か否かは「引き出し」の使い方で決まるのだ。

例えばバトル中、対戦相手が「~俺はテクニカル」とラップしたとする。そこですかさず、あなたがこうアンサーしたらどうだろう。

確かにコイツは相当テクニカル
だがこの場で俺が速攻で首刈る

あなたは相手のバース中の言葉を用い、自分の「引き出し」の中からそれに合った言葉でライミングしたのだ。オーディエンスも大盛り上がりだろう。

まとめると、「引き出し」はHIPHOP的生活の中で培われるライムのストックを指し、「ネタ」は相手を見て新たに作った「引き出し」を使うこと、もしくは「引き出し」を何の脈略もなく使う行為を指す。

 

一見「ネタ」には見えない「隠れネタ」

相手の言葉を拾って、それに合った「引き出し」で韻を踏むのは「ネタ」ではない。これには実は例外が存在する。それが「隠れネタ」だ。

ここではいい例であるため、第10回高校生ラップ選手権のLEON vs Icerey戦を用いて解説したい。

選手権前に不正投票が話題となったIcerey。選手権当日誰かがそれについて触れてくることは必至。そこで、カウンターとしてライムを用意するのだ。

LEON:どうなってんだ不正投票
Icerey:関係ない不正の投票 俺飛び越えるスケートボード

相手が何を言ってくるか予め分かっていれば、それに対応するライムを用意することが出来る。これを筆者は「隠れネタ」としている。「隠れネタ」はその場で聴いていただけではなかなか判断しづらく、あたかも即興でライミングしたかのように見えるため、かなり有効な手段と言えるだろう。

 

「ネタ」を使うことの是非

「ネタ」を使うことは果たして非難されるようなことなのだろうか。筆者の考えとしては、是とされる「ネタ」、そして非とされる「ネタ」それぞれが存在するように思う。

例えば先ほど例に挙げた、LEON vs Icerey戦におけるLEONの次のライン。

俺の事うぜぇどうこうの前に
どうなってんだ不正投票

これは明らかにネタと言えるが、ぶち上がってしまったのを覚えている。不正投票疑惑は、アンダーグラウンドのカルチャーを題材にしながらも、「バトルが終わったら握手&LINE交換」なんて文句で、健全さを謳っている高校生ラップ選手権で触れるには少しナイーブな問題と言える。それをIcereyと仲の良いLEONがDISったのだから、上がらざるを得ない。

このようにネタでもMCにまつわる時事問題なんかが絡んでくると十分なパンチラインになり得るし、「ネタ」の解説の一つ目の例のように、一人の相手にしか使えないような「ネタ」は是とされる「ネタ」と言えるだろう。特に先行であればなおさらだ。MCバトルには先攻と後攻が必ず存在し、先攻はそのバトルの主軸となる話題を決める役割を担う。にも関わらず「何も用意していません。言うことありません。」ではバトルとして成立しない。そういう意味で言えば「ネタ」は必要なものなのかもしれない。

また、「ネタ」と分かっていてもビートへの乗せ方などで、これまた上がらざるを得ないことがある。

いい例がチプルソだ。

 

ここまでガチガチに決められると上がらざるを得ない。チプルソは小節単位でネタを用意するのだが、この独特な声質と聴き心地の良いフロウもあってか、オーディエンスも「ネタ」と理解したうえでなお彼を評価する。スナフキンなんかも同様だ。

即興性がより重視されている日本のMCバトルにおいては「ネタ」と聞くとマイナスなイメージを持ってしまいがちだが、本場USのMCバトルなんてむしろ「ネタ」がメインである。「これはネタだから」と頭でっかちに否定するのではなく、ネタを吟味するとよりMCバトルを楽しめるかもしれない。

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